【出版のお知らせ】「ナチス・ドイツと <帝国>日本美術」
国際言語・文化学科の安松みゆき教授が、『ナチス・ドイツと<帝国>日本美術 -歴史から消された展覧会-』(吉川弘文館)を刊行されました。ナチス政権下で開かれた伯林(ベルリン)日本古美術展覧会。日独メディアの報道内容から展覧会の全貌に迫り、美術と政治が交錯する世界を描いています。附属図書館に架蔵されていますので、ぜひご覧ください。
- シリーズ近代美術のゆくえ
『ナチス・ドイツと<帝国>日本美術 -歴史から消された展覧会-』
安松みゆき著
吉川弘文館/4,500円(税別)
<安松みゆき教授のコメント>
本書は2012年に早稲田大学に提出した博士論文の一部を基に、その後の知見を加えて、新たに文章を書き起したものです。主題となっている1939年の「伯林(ベルリン)日本古美術展」は、国宝と重文が全体の4分の3を占め、今日においても海外では再現は困難と言われるほど、高い水準を示しました。しかし戦争へと向かう政治情勢とあまりにも深く関わったため、戦後は語ることすら憚られる展覧会になってしまいました。同展の開会式にヒトラーが出席し、会場を巡覧したと聞けば、誰しも戦後に評価が難しくなった事情を理解できるでしょう。
このため日独双方において、この展覧会の研究は停滞していましたが、1997年頃に早稲田大学の指導教授丹尾安典先生から研究を勧められ、博士論文を経て本書の内容が形づくられました。また東京芸術大学の佐藤道信先生が推薦して下さったことで、吉川弘文館からの出版が可能になった次第です。
本書は伯林日本古美術展を負の政治性ゆえに避けるのではなく、むしろ美術と政治の危険な関係を知るための、一つの重要な手がかりとして取り上げています。ドイツにおける日本美術史研究の深まりと、日独関係の政治的演出とが交錯するなかで成立したこの展覧会は、美術展が戦争への布石となりうることや、政治的危機が美術展の質を高める場合があることなど、さまざまな事情を教えてくれます。また厳しい統制のなかで、ナチスの美術政策に批判性を保ってこの展覧会を論じた批評家の存在など、記憶に残すべき話題も掘り起こすように努めました。
[投稿日:2016年6月17日]